強くなりすぎたAIは、公開されなかった。
2026年4月。Anthropicが静かに、ある発表をした。
新しいAIモデルの名前は「Claude Mythos Preview」。ミトスとはギリシャ語で”神話”を意味する。
既存のすべてのAIモデルをベンチマークで上回り、GPT-5.4もGemini 3.1 Proも数字の上では遠く置き去りにした。コーディング、多言語対応、マルチモーダル、PC操作——あらゆる分野で、これまでのトップを塗り替えた。
つまり、ChatGPTもGeminiも、今この瞬間すでに”過去のもの”になっている、ということ。
だが、誰もそれに触れることができない。
Mythosは一般公開されていない。APIでも使えない。通常のユーザー向けUIにも存在しない。
公式が公開したのは、モデルカードだけだ。これはClaudeシリーズ初の異例の対応だった。
つまり、「存在は認めるけど、渡せない」という発表だった、ということ。
なぜか。
Mythosは、よく利用されているOSやWebブラウザのゼロデイ脆弱性を自律的に発見する能力が非常に高くなっている——Anthropic自身がそう評価している。
つまり、「ずっと安全だと思われていたソフトに穴が空いていないか、AIが自分で探し回れる」ということ。しかも人の手を借りずに。
見つけるだけで終わらない、というのが問題だ。
脆弱性を発見する能力は、裏を返せばそれを攻撃に利用する手がかりにもなる。だからこそAnthropicは、一般へのリリースという選択肢を取らなかった。
つまり、「鍵のかかった扉の開け方を見つけてしまうAI」は、守る人の手にだけ渡すべきだ、という判断をした、ということ。
攻撃に使えるものは、防御にも使える。
Anthropicはサイバーセキュリティを重視する少数のパートナー企業にのみ、Mythos Previewを限定提供する方針を発表している。
一般ユーザーが使えるのは、引き続きHaiku・Sonnet・Opusまで。
つまり、「私たちの手には届かない」ということ。
AIが”強くなりすぎた”という理由で封印された——そんな出来事が、2026年の春に静かに起きていた。